ブレインタンニング、あるいはバックスキン作り

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獲ったエゾシカの皮。狩猟を始めたころ、迷わず捨てていました。いつからか、これをどうにか使えないかと思い、いろいろと調べ、このブレインタンニング(脳を使ったなめし手法)に辿り着きました。

改善点はありますが、満足いく仕上がりです。
ブレインタンニング後の色はオフホワイト。このあとスモーク(燻煙)することでタンニングを不可逆的に固定し、濡れても性質が変わらない状態にするとともに、みんながよく知っているあの茶色い革の色になります。

私の手法はすべてこの本から学びました。というかまだ学び途中です。何度も見返しながら作業を進めています。

Matt Richards, Deerskins into Buckskins: How to tan with brains, soap or eggs, 2nd edition. (ISBN 0-9658672-4-2)

タンニング(なめし)を検索すると、日本語では「草木なめし」「クロムなめし」の解説が多く、一部に「脳漿なめし」の記述がありますがマイナー扱いです。これは、「レザー(leather)」を前提とした説明だからかも知れません。ブレインタンニングはなめし剤(脳など、乳化した油分を用いる)を使って皮を動かし続けながら(引っ張り続けながら)乾燥させる手法で、出来上がったものはごついレザーとは明瞭に異なり、柔らかく、洗えて、衣服に使えるバックスキン(buckskin)と呼ばれます。上記の本の著者、Richardsによれば、バックスキンはその手法で鞣された皮を指し、有蹄類であればどの種でも作れるそうです。つまり、牛の皮は通常レザーになめされますが、バックスキンに仕上げることも可能だし、逆にシカの皮をレザーに仕上げることもできるということです。レザーとバックスキンの違いは、大きく異なるなめし手法の違いと言えます。

Richardsはバックスキンを作るなめし剤について、脳以外にも鶏卵や、石鹸と油の混合物などを紹介しています。狩猟をしない人がバックスキンを作ろうとした場合、それらの代替品の方が入手しやすいでしょう。一方で、ブレインタンニングでよく言われる面白い表現があります。

”Deer conveniently come with just enough brains to tan their own skin.”

つまり、シカ1頭の脳は、シカ皮1頭分をなめすのにちょうどいい量なのです。一狩猟者としては、これは大変ありがたい。狩猟や駆除で獲られるシカの多くはそのまま捨てられています。肉をしっかり消費するハンターでも、皮や骨は捨てます。脳を利用しているハンターはごくごく一部でしょう(南米では羊の脳をBBQで食べます。なかなかうまいそうです)。捨てられる皮と脳からバックスキンを作り、その手触りを楽しむことで、実に深い満足感が得られます。かつて北米で一般的な衣服の材料だったバックスキンが廃れたのは、代替品としてのジーンズの出現と、その工業化しにくい複雑な作業工程にあったということです。それでも現在、少しずつ、その複雑な作業を楽しむ人たちが増え、失われつつあった伝統技術が静かに広まりつつあります。私もその一人として、ブレインタンニング、バックスキン作りを続けていきたいと思います。

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